◎いちばん最近聴いた音源 5作品の感想を掲載しています。カッコ内はレビューを書いた日。
◎これ以前の分については「CDレビューの一覧表示」をご覧下さい。
評者の好みを「★」の数で表してます。3つが最高。☆は半分。

「だけど、わたし、アイドル」　文坂なの

2024年1月リリースの1stフルアルバム（13曲収録）。これまでのシングル曲に、ライブでの人気曲、本作のために書き下ろされた新曲などを加えたベスト盤といえる作品。ファンにとっては耳になじんだ楽曲が大半ではあるが、こうしてまとめて聴いてみると、ほんとうにいい曲ばかりだということ、そして違う時期に発表されているにもかかわらず、全体としてひとつの新たな物語を紡ぎ出しているかのようなトータリティにもうならされる。彼女の場合はセルフプロデュースであり、自分のやりたい音楽がしっかり定まっていて、それを実現する制作能力、もっといえば"作家性"も備えているからこそできることなのだろう。
新曲は3曲。いちばん好きなのはメロディーの切なさが80年代的なセンチメンタリズムを浮かび上がらせる「やさしいひと」。繰り返し何度でも聴きたくなる。ユーロビートに通じるメリーゴーランド感が楽しい「妄想ワンルームワンダーランド」、ノスタルジックなフレーズから主人公のリアルな存在感が垣間見える表題曲「だけど、わたし、アイドル」もそれぞれ魅力的。オープニングに置かれたステージのオーバーチュア「Curtains of Night」にもわくわくさせられる。現時点での決定盤。 ★★★（2024/02/25）

「ムーンライトストリート」　うさぎのみみっく!!

2023年4月リリースの1stフルアルバム（10曲収録）。4人組アイドルグループのうさみみは2014年に最初の活動をスタートさせているが、その後メンバーの脱退等で長らく休止状態が続いていた。なので、私などもうさみみを知ったのは、その間にやっていたメンバーのソロ（川上きららさんなど）を通してだった。本作はうさみみが2023年に現体制で再始動してはじめての本格的な作品である。ただ、代表曲「シンメトリック」をはじめ以前の楽曲も新録で収録されているようだ。
全体的なイメージは「オーセンティックで清楚感のあるアイドルポップで構成されたミュージカルのサウンドトラック」。1曲聴き進むたびにステージのあたらしいシーンがはじまるような驚きと感動を味わうことができる。全楽曲を手がけたInagi氏はボカロPとのことだが相当な才人だろう。バラエティに富んだリッチなサウンドとキュートで表情豊かなメンバーそれぞれの歌声。とりわけ印象的なのは、新メンバーとして加わった3776の井出ちよのさん！ 彼女のボーカルは、間違いなく現体制のうさみみ駆動する強力なエンジンとなっている。イマジネーションのかたまりのような一枚だ。 ★★★（2024/02/25）

「テレパスガール」　セカンドワルツ

2023年9月リリースの1stフルアルバム（12曲収録）。本作リリースの前後にSpotifyのレコメンドで知った。もともとはTHE ROMANSというバンドとして活動していたが、現在はその楽曲も引き継ぎながら、河村勇之介氏によるソロプロジェクトとなっている。バンド時代から一貫してボーカルには女性をフィーチュアしてきているので、女性ボーカルのアーチストといっても間違いではないだろう。
どこか懐かしさを感じさせるようなフォーク風味のかわいいポップ。1曲目の表題曲がピンときたなら全部聴きたくなるはず。ありそうでなかなかない音楽ではないだろうか。どこか儚げなボーカルもとてもいい味出してる（古暮まちさん）。ディテールはもちろん違うわけだが、銀色夏生「BALANCE」（1989）あたりに通じるものも感じた。あそこにちょっぴりガレージっぽさをプラスしたイメージ。そういえばあの作品もボーカルが主役ではなく、ひとつのパートとしてつくられていた。機会があればぜひライブでも聴いてみたい。 ★★☆（2024/02/25）

「Rojo」　Lil Summer

2023年3月リリースの1stアルバム（7曲＋リミックス1曲、全8曲収録）。Lil Summerは福岡を拠点に活動しているシンガーソングライター。2021年9月に1stシングル「Dirac Sea」がリリースされてすぐに聴く機会があり一発で気に入った。本作は彼女のデビュー以来の主要楽曲をまとめた一枚となっている。
ジャンル的にはネオソウル。チルでアンビエントな感覚をベースにした、ゆったりと奥行きのあるサウンド。80年代のシャーデーなどを思い起こす人もいるだろう。歌詞は基本英語で、ほどよく甘い声質で力の抜けたボーカルがとても心地よい。1曲1曲をしっかり聴き込む…というよりは、アルバム単位で一日の締めくくりなどに空気のようにその鼓動を感じたい音楽性ではないだろうか。その意味でも彼女の楽曲をまとめて聴ける本アルバムは待たれていた作品といえるだろう。流れも決して一本調子ではなく、いい感じに緩急がきいていて飽きさせない。 ★★☆（2024/02/25）

「COVERS II -Sora Amamiya favorite songs-」　雨宮天

2023年6月リリースのカバーフルアルバム第2弾（11曲収録）。「君は薔薇より美しい」「イミテイション・ゴールド」「喝采」「ラヴ・イズ・オーヴァー」…。2年前の第1弾に続いて、70〜80年代の歌謡曲/ニューミュージックから選曲している。渋い曲や知る人ぞ知る曲ではなく、もろにベタな名曲が並んでいるのだが、それでも素直に楽しく聴けてしまうのは、やはりアレンジが正攻法でちゃんとしていること、そして雨宮さんの高いレベルで安定した歌唱力のおかげだろう。
カバーを歌う彼女は、アーチストのように自分の個性を前面に出していく感じではない。たとえば「難破船」〜「あなたに逢いたくて」と続くところで、「難破船」では発声でも唱法でも中森明菜を意識させ、「あなたに逢いたくて」では松田聖子を明らかに感じさせる。声優が役に入り切るように、歌の世界ではオリジナルの歌手になり切っている。かといってモノマネとは違う。絶妙の距離感なのである。そして何よりも肩肘はらずに楽しんで歌っているのが伝わってくるところがとてもよい。 ★★☆（2024/02/25）