評者の好みを「★」の数で表してます。3つが最高。☆は半分。

「陽だまり」　ウワノソラ

2017年10月リリースのフルアルバム（14トラック・実質11曲収録）。ウワノソラは、2015年にメンバー3人のうち2人による「ウワノソラ'67」という派生ユニット名義で、「Portrait in Rock 'n' Roll」という素晴らしい作品を発表している。その後、メンバーの脱退によりウワノソラとウワノソラ'67の違いはなくなった。従って、本作はウワノソラ'67の新作と言うこともできるだろう。
サウンドは、前作がナイアガラ（大瀧詠一）リスペクトサウンドであったのに対して、もう少し広い「70年代ニューミュージックリスペクトサウンド」と思えるようなものに進化している。たっぷり使われたストリングスとホーンズに精緻なリズム。どこか懐かしさを感じさせる、それでいて押しつけがましさのない洗練と技巧を秘めた、非常にモダンなサウンドが全編にわたり展開されている。さらに、どの曲も甲乙つけがたい充実したソングライティング力にも一段と磨きがかかった。印象的で美しいメロディーと鮮やかな言葉で紡がれた歌詞…。まさに正攻法。聴き飽きることがない、エバーグリーンな魅力に満ちている。基本的に女声ボーカルなのだが、2曲ある男声ボーカル曲もとてもいいコントラストを生んでいる。
これだけの充実作だが、今回もまた入手できる販売ルートがかなり限られている。私も公式サイトの直販サービスで手に入れた。しかし、それくらいの手間をかけてでも聴く価値のあるアルバムだ。 ★★★（2018/01/24）

「KIRAMEKI☆ライフライン」　春奈るな

3曲収録の11thシングル（2017年11月リリース）。表題曲は春奈るなさんが初めて声優として主演したアニメの主題歌（ED）。アニソンらしいドタバタ感あふれるアッパーチューンなのだけど、その特徴はなんといっても全体に散りばめられたジャズテイストだろう。これがけっこうよくこなれている。単にジャズサウンドで「大人っぽさを出してみた」とかいう浅い感じではなく、もう一歩踏み込んで、ジャズ的なフレーズやソロパートを音楽の「部品」として完全に消化吸収し、まったく新しいサウンドに仕上げている…そんなイメージ。これまでの春奈るなさんのどの作品にもないフレッシュな感覚を生み出している。彼女の声質や唱法にもとてもよくフィットしているしね。新しい試みに挑戦しているという面からも評価したい作品。C/Wの2曲もよくまとまっている。 ★★☆（2018/01/24）

「知らない誰かに抱かれてもいい」　寺嶋由芙

2017年11月リリースの7thシングル（3曲収録）。アイドルの曲としては非常にインパクトのあるタイトル。ただ、女の子がこんなことを言い出すのはどんな場面だろう…と想像していくと、恋人に振られて破れかぶれになってる時かな、というあたりに落ち着く。曲を聴いてみると、振られてはいないものの、女心をまったく理解してくれない彼氏に、半ば絶望しながら心の中でぶつけている言葉だとわかる。まあ、当たらずとも遠からずだろうか。その意味ではインパクトも思ったほどなかったというか、ちょっと惜しい印象。逆に、まったく正反対の世界観のC/W曲「世界で一番かわいい君へ」が美しいメロディーとピュアな歌詞で意外にぐっときた。 ★★（2018/01/24）

「WATER」　SHE IS SUMMER

2017年11月リリースの1stフルアルバム（12トラック・実質11曲収録）。先行した2作のEPの延長線上のサウンドで全体をまとめている。ある意味で、東京を代表する都市型ポップスの現在形…とでもいいたくなるような、華やかでかわいくて洗練された楽曲が並んでいる。とてもクオリティーは高いと思う。
ただ、EPで聴いた時にはちょうど頃合いだったそうしたサウンドが、アルバムになるとやや一本調子かな…という印象も受けた。緩急だけでなく、サウンドのコンセプトの部分で何かアクセントになるような変化球といえるような楽曲が、いくらか混じっていれば…。欲張りすぎかもしれないが、そんな気もしたのだ。あと、EPからの曲はあいかわらず素晴らしいのだけど、本アルバムでお披露目された新曲にもキラーチューン的な曲が欲しかったなとも。 ★★（2018/01/24）

「UTANINARE!! / わたし」　泉茉里

元いずこねこで、現在はロックバンド「THE 夏の魔物」のボーカルを中心に活動している泉茉里さんが2017年5月にリリースしたソロ名義でのシングル（2曲収録）。両A面扱いの「わたし」は「THE 夏の魔物」のアルバムにも収録されている。本作を知ったのも、同アルバムの中の「わたし」を聴いたことがきっかけだった。そして、両曲ともにエモいのであるが、結論からいえば、その濃密さにおいて圧倒的なのが「わたし」である。
「わたし」は地方から上京して歌で勝負しようとしている若い女性の心情を歌っている。おそらく泉茉里さん自身のパーソナルなストーリーを歌詞にしているのだろう。作詞は元チャットモンチーの高橋久美子さん。まずこれが見事である。5分ほどの曲を聴き終わった時、小一時間の短編映画でも見ていたような感覚をおぼえる。一場面ごとに映像が浮かび、登場人物たちの声まではっきりと聞こえていたかのような…。もちろん泉茉里さんの表現力があってこそである。
ブルージーなメロディーとサウンドも良い。何の予備知識もなしに誰の曲か訊かれたら、「つんく？」と答えたかもしれない。モーニング娘。の「ふるさと」とか、あのへんが下敷きになっている可能性は大いにある。しかし、前向きで自立したまなざしの強さをくっきりと感じさせる「わたし」が、まったく新しいオリジナルなエモーションを生み出しているのもまた確かなことだろう。音楽でありながらこれは一つの「青春文学」でもある。 ★★★（2018/01/24）