評者の好みを「★」の数で表してます。3つが最高。☆は半分。

「旅するギター」　ラッキーオールドサン

2019年4月リリースの3rdフルアルバム（10曲収録）。これまで以上にフォークロック的なバンドサウンドを意識した作品となっている。序盤3曲、終盤3曲にドライブ感のある楽曲を配置し、中盤4曲はアコースティック感のあるミディアム〜スローナンバーとする構成。全体のテーマは表題曲のタイトルに象徴されている「移動していく感覚」だろうか。それは空間的な移動でもあり、同時に過去から未来へという時間的な移動でもある。歌詞の中に登場するさまざまなアーチストの名前は、そういう先人たちの音楽の上に今の自分たちの音楽があるという認識を示すものなのかもしれない。
これまでにないアッパー曲である「I wanna be your boyfriend」に、やはりかつてないほどロック的なアプローチをみせる「夜は短し」、言葉の力強さが際立つ「ワンモアチャンス!」…など、新鮮な試みに満ちたナンバーの数々。クライマックスは「Rockin' Rescue」だろう。メロディーの良さがじわじわ沁みてくる「愛はとこしえ」も印象深い。プライベートでもパートナーとなった二人が生み出した、グループの新たな出発点となるアルバムだろう。 ★★☆（2019/08/02）

「HURRICANE UPSETTER」　Magic, Drums ＆ Love

2019年5月リリースの2ndアルバム（13トラック・実質9曲収録）。インスト風の短いトラックによって全体は3つのパートに分けられている。一種の転換の役割を果たすトラックのタイトルから判断すると、それぞれ「1930年代」「1950年代」「1960年代」をイメージしたパートということになるのだろうか。各年代の音楽にインスパイアされて出来上がった楽曲を集めているように感じられる。かなり凝った構成である。
序盤は大人っぽいゆったりしたノリが印象的。20世紀初頭のエレガントで贅沢で無国籍な香り、コロニアルな感覚が、現代的でグルーヴィーなサウンドの中に包括されている。中盤になるとより都市的なフィーリングが加わり、産業音楽的な快感も強調される。終盤はロックやR＆B、テクノロジーを使った音楽のエネルギーが爆発する。まさにポップミュージックの歴史を踏まえた多国籍音楽だ。そして、これこそが「東京のロックンロール」であるというのがこのグループの主張なのだろう。どの曲もクオリティーは高く、楽しく聴けるが、構成に凝ったことでやや流れがわるくなっている気も…。 ★★☆（2019/08/02）

「ルパとアリエス」　春奈るな

2019年6月リリースの配信限定シングル（1曲のみ）。紹介記事などによると本作から「童話二次創作シリーズ」がスタート。童話に設定を借りながら新たにオリジナルな世界を展開していくという。第一作となる「ルパとアリエス」のテーマは「狼女と羊男」。すなわち「S嬢とM男」を思わせるエロティックなストーリーをスピード感たっぷりのジャズサウンドにのせて小気味よく歌っている。同じダンサブルなジャズでも、雰囲気は自身の「KIRAMEKI☆ライフライン」よりも、ハナエさんの「恋は神聖ローマ」に近い感じだろう。なかなか良いと思うのだが、1曲だけではなんともいえないところも。シリーズ化を明言していることだし、しばらくはこの方向性で続けてほしいものだ。 ★★（2019/08/02）

「BLUE」　Mahina

Mahina（マヒナ）は、元Softlyのボーカル・Mutsukiさんによるソロユニット。楽曲も自ら手がけているので、シンガーソングライターともいえるし、公式サイトによると彼女を中心としたクリエイティブチーム全体をさしたりもするようだ。本作は2019年6月リリースの2ndミニアルバム（7曲収録）。
基本的にはEDM、ないしはエレクトロニカ的なサウンドを使ったボーカル音楽である。深い奥行きを感じさせる音空間の中で、豊かなスケールと繊細な表現力をあわせもつ彼女の歌声の魅力をたっぷり味わうことができる。象徴的ともいえる楽曲が2曲目「YOU」だろう。中音から高音まできれいに伸びるボーカルに思わず惹きつけられる。躍動感のあるサウンド、メロディーもとてもよい。それ以外のナンバーもそれぞれ個性的で、Mahinaの大きなポテンシャルを感じさせられる。ヨーロッパ的なエスニシティーをモチーフにした「week」、繰り返されるフレーズがリアルな都市生活の深部を照らし出す「coin laundry」、レゲエのリズムでポップなメロディーを歌い上げる「N」…いずれも甲乙つけがたいクオリティーだ。
そして、最終曲「彗星の尾っぽにつかまって」では、シンプルなピアノとストリングスにのせて大バラードをキメてみせる。それまでのサウンド的な文脈からはやや離れる曲だが、これがまた圧倒的なのだ。ライブもやっているようなので、これらの音がどう再現されているのかも非常に興味があるところ。ぜひ生でも聴いてみたい。 ★★☆（2019/08/02）

「サマ☆ラブ」　Ange☆Reve

2019年7月リリースのシングル（3曲収録）。タイトル曲はどストレートな夏仕様アゲアゲナンバー。こういう曲はライブでいかに沸けるか、盛り上がれるかで評価すべきであって、音源をじっくり聴いてどうこうではない…のだが、やはり曲としてはヒネリがなさすぎてちょいと物足りないというのが率直な感想だ。誰かリミックスでカッコいいバージョンつくってくれんかねえ…。
C/W曲は、あんじゅれお得意の「堕天使」「天使」の二面を象徴する2曲。こちらはそれぞれいい感じで仕上がっている。このグループはダンスがウリでもあるので、どの曲もやや長め（平均4分半くらい）。最初からダンスバージョン的なつくりになっているのも特徴かな。 ★☆（2019/08/02）