評者の好みを「★」の数で表してます。3つが最高。☆は半分。

「恋の大三角関係」　寺嶋由芙

2019年9月リリースのシングル（2曲収録）。9月リリースだけど、どちらも「夏曲」。タイトル曲はアッパー、C/W曲「君も好きだったんだね、夏」はメロウ…という違いはあるが、いずれも80年代アイドルソングのエッセンスを現代的にバージョンアップした作風で、ゆっふぃーらしさが感じられる楽曲となっている。特に「君も…」は、夏の日に吹き抜ける一瞬の涼風のような、洗練されたシティポップ的サウンド。どちらかと問われればば、好みはこっち。この方向性とクオリティーをそのままアルバム単位にまで拡張したら、かなりの良作が生まれるのでは…という気もするのだが、今の時代はそういうアルバムづくりはなかなか難しいのかな。 ★★（2020/01/13）

「Wake up!! E.P.」　原宿眠眠

原宿眠眠としては2作目にあたる4曲収録のE.P.（2019年9月リリース）。デビューシングルではまだ見せていなかった新しい引き出しを次々に開けていく感覚が味わえる。これ以上キュートなロックってないでしょ！と言いたくなる「Summer Soda」、エレポップと彼女のボーカルの相性の良さに気づかせてくれる「いいにおいのゆめ」、かわいさ全開のメロディーとパンダ愛が交錯する「RomanTickがとまらない」、そして爽やかな朝の光の中を駆け出したくなる、希望にあふれた表題曲「Wake up!!」…。全体の構成（曲順）も後半にいくにしたがってどんどん気分が高まっていく感じでたまらない。
本作の収録曲はすべて他のアーチストとのコラボレーション楽曲（作詞のみ原宿眠眠）。彼女はもともとシンガーソングライターなので、作編曲もやろうと思えばできるはずだし、イメージをすりあわせる手間や予算面を考えれば、自分でやるという判断も当然あっただろう。しかし、そこで妥協せず、自らが理想と考えるサウンドに近づけるあえて難しい方法を選択している。クールな判断とそれをやり通した気持ちの強さが形となった作品だ。 ★★★（2020/01/13）

「I LOVE YOUR LOVE」　Negicco

2019年9月リリースのシングル（3曲収録）。西寺郷太氏による表題曲が圧倒的。決してアップテンポではなく、むしろ力の抜けたゆったりした曲調…といってもいいのに、そこには不思議なほど強力なグルーヴが一貫して流れている。また、直訳すれば「私はあなたの愛を愛す」という、シンプルすぎてかえって奥深さを感じさせるようなテーマを歌う3人それぞれのボーカルも、決して力まない自然体の中に「透明な成熟」とでも言いたくなるような切なさを潜ませて、じつに味わい深い。楽曲も歌声も、余分な力が抜け、それでいてしなやかな懐の深さを感じさせるのだ。まさに大人のアイドルならではの境地ではないだろうか。有名曲のフレーズを一瞬だけ浮かび上がらせる引用もまことにスマート。1曲だけといわず西寺氏に全曲まかせたアルバムを聴いてみたくなる。 ★★☆（2020/01/13）

「ムーンライト・Tokyo」　カイ

BELLRING少女ハート、THERE THERE THERESなどのグループでの活動を経て、ソロとなったカイさんのデビュー作（5曲収録）。リリースは2019年6月。雰囲気は1980年代のデジポップ系アイドル。「不思議・少女」（真鍋ちえみ）などカバー3曲が含まれている。個人的にはボーカルのテイストから中野理絵さんを思い出した。彼女も80年代のアイドル。その歌ははっきりいって調子っぱずれなのだが、曲は名曲がそろっていた。1stアルバムは名盤である。そのうちボーカルもこれはこれでいい、というかこれしかないんじゃないか…と思えてくるような独特な個性を持ったアイドルだった。当時とてもおもしろく聴いていた。何が言いたいかというとカイさんの歌もこの作品もかなり好きだということ。オリジナル2曲もよくできている。すでに二作目もリリースされているので、そちらもチェックしてみたいと思っている。 ★★☆（2020/01/13）

「夜の舞踏会」　熊川みゆ

18歳のシンガーソングライターの2019年3月配信のシングル曲（1曲のみ）。まったくノーチェックだったのだが、秋頃になってSpotifyの「あなたが好きそうな曲」みたいなレコメンドリストに入っていたのを聴いて知った。ちょっとエスニックでダンサブルなノリを感じさせるアコースティックサウンド。いわゆる弾き語り系のシンガーソングライターが歌いそうな曲とは一線を画している。輪郭の引き締まった歌声とともに一発で記憶に残るメロディアスさは大きな魅力だろう。他の楽曲もチェックしてみたが、こういうタイプの曲ばかりでもないっぽい。いずれにしても、18歳でこういう曲を書ける、歌えるようになるというのはどういうバックグラウンドなのか。ちょっと注目してみたいアーチストだ。 ★★☆（2020/01/13）